あさひ学園 - Asahi Gakuen文科省・外務省支援
ロサンゼルス補習授業校

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卒業生・同窓生便り

第二十六回 岩永志保 さん

卒業生・同窓生便りの第26回は、NASA(アメリカ航空宇宙局)に博士研究員として勤務されている岩永志保さんからです。岩永さんはお父さんの仕事の関係で、小学5年生の時にアメリカに来られ、それ以来あさひ学園にも高等部の2年生まで通われました。来た当初は言葉や文化の違いに戸惑いましたが、次第に現地の学校にも慣れ、高校ではマーチングバンドやジャズバンド部での生活も楽しまれました。大学進学の際に、「手に職」を持つ必要性を強く感じ、東部のスミス大学に進学、3年生からは物理学を専攻しました。中でも地球温暖化等の地球環境問題への関心が強まり、ワシントン大学の博士課程では電気工学と材料工学を専攻、代替エネルギーの研究に取り組みました。今年6月に博士号を取得、大学院での研究をさらに深めるべく、バージニアにあるNASAの研究所で宇宙開発の研究を進めています。現在、英語での生活が中心となっている岩永さんですが、日本語を学ぶことの大切さとして、基礎が出来上がっていた日本語が英語力の向上にも役立ったというご自身の体験の他に、宇宙研究をしている職場においても、自分のルーツである日本の国や文化の誇りを持って働くことの重要性をあげています。そして、在校生の皆さんには、今思っている夢の実現に向かって積極的に進んで欲しいことを伝えてきています。

日本人として大切な日本語

在校生の皆さんこんにちは。私は日本に帰らなかった帰国子女として、在米暦は20年以上になる岩永志保と申します。あさひ学園にお世話になって以来15年の月日が経ち、私は今バージニア州の片田舎にあるNASA(アメリカ航空宇宙局)の研究所で博士研究員として宇宙開発に携わっています。今回は在学中にお世話になった先生方への感謝の意を込め、執筆させていただくことにしました。私は海外子女に対する日本語教育の重要性についてをこれまでの自分の経験から学んだのですが、これからお話することが、皆さんが今後の人生を考える際に何かしらの参考となれば幸いです。

アメリカ生活と職業選び

私は父の仕事の都合で、小学校5年生のときにロスアンゼルスに来て以来、あさひ学園トーランス校では高校2年生までお世話になりました。当初は滞在が3年から5年の予定であったので、将来の日本での進学・生活を視野に入れ、あさひ学園を中心とした日本語教育を受けてきました。はじめてのアメリカ生活での英語の苦労は言うまでもないですが、文化的な価値観の違いの発見や今までの自分の常識が覆されていく新鮮な驚きの繰り返しの中、アメリカ生活を楽しんでいたように思います。

ところが、大変ながらも充実した高校生活を送る中で、私の日本の大学受験プランは、いつしか疑問符へと変わっていきました。私には幼い頃から両親に度々言われていた事があります。それは「親はいつまでも生きてはいないのだから、自分一人でもしっかりと生きていける様に手に職をつけなさい」という言葉でした。将来、私はどの様なスキルを武器にキャリアを築いていきたいのだろう。近年では日本語が流暢な外国人も、英語の堪能な日本人も沢山います。単純に日本に帰ってバイリンガルをアピールしたところで、「手に職」を持ったとはいえないのではないだろうかと思うようになりました。将来社会に出で必要なのは、言語スキルプラス何か、ではないのだろうか。私にとって大切なことは何ヶ国語が話せるかというよりは、自分に何ができるか、伝えたい何かがあるか、ということなのではないかと思うようになりました。

アメリカの大学への進学という選択肢が出来たのは、現地の高校で物理に興味を持ったことがきっかけでした。私は小学校の頃から、酸性雨や地球温暖化等の地球環境問題に心を痛めていました。そうした興味の中、これから理工系の分野を勉強してみたいと思うようになりました。ただ、本当に自分が理工系の科目でやっていけるのかが不安であった為、大学3年生まで専攻科目を選択しなくてよいアメリカの大学に進学することにしました。マサチューセッツ州にあるスミス大学に進学し物理学を、さらにワシントン大学大学院では電気工学を学び、材料工学の教授の協力の下、エネルギー問題解決に向けた代替エネルギー材料研究に従事しました。足掛け8年の大学院生活を終え、今年6月に無事に博士号を取得、現在に至っています。

宇宙に関しては、父の影響で漠然とした興味を持ってはいましたが、自分が仕事で携わることになろうとは思ってもいませんでした。NASAでは、有人・無人宇宙探査機や人工衛星をはじめとした数多くの宇宙開発技術が発展しています。また太陽電池や断熱材のように、研究によって生み出された様々な技術が直接社会に還元されてもいるのです。研究者としては私はまだ夢の途中ですが、世の中をよりよい場所にするための科学技術に貢献できればと思います。

日本語を維持することの重要性

さて、かつての私がそうだったように「現地校で山のように宿題が出る、でもクラブ活動もしたいし友達とも遊びたい、なのになぜ、週末にあさひ学園で日本語での勉強をしなければいけないの?」と思うときが皆さんにもきっとあると思います。特にアメリカに残る予定の人は「アメリカに住むのであれば、日本語なんて必要ないんじゃない?」と考え、日本語での勉強の優先順位をどんどん落としてしまう人も少なくないでしょう。

私の場合、本来は帰国を見据えた上で受けていた日本語教育でしたが、結局はアメリカに残ることとなり、今は日本語のスキルは直接必要がない職場にいます。しかし、それが無駄だったことはまったくなく、むしろ自分がアメリカで学び、成長するうえで必要な要素ではなかったかと思っています。なぜかというと、海外子女にとって気をつけなければいけないことの一つに、英語も日本語も中途半端になり、学年レベル相応の脳を鍛えることが出来なくなるということがあります。学問や仕事を進める上で大切なことは、どの言語であれ、如何に物事をより広く深く理解できるかどうかではないでしょうか。私は11歳まで日本で教育を受けていましたので、母国語である日本語の基礎は大体できていたようです。なので、本を読んで物事を理解するのに一番使いやすいツールであったことは間違いありません。反対に学び始めの英語は、数年間、小学校低学年が読む本でさえ理解するのが難しいレベルでした。年齢相応のレベルの読解力や知識を得ていくには日本語の能力が必要であったわけです。また、日本語力をキープすることにより、特に役立ったこととして現地校での授業の理解度の向上が挙げられます。例えば、理科の教科書を英語で読んだとき、分からないところがあれば日本語の教科書や参考書を読み、理解したうえで再読するわけです。このように、日本語できちんと理解できることが、英語力の向上にも役立ちましたし、現地校の成績アップにも大いに貢献してくれました。

また、日本語教育が重要だと考えるもう一つの理由は、国際社会を生きる日本人として、自分の国を忘れてはいけないということがあります。例えば、あなたが将来宇宙飛行士になり、国際宇宙ステーションで他の国の人と雑談する時に、自分のルーツである国や文化について知らないというのは国を代表する人間として恥ずかしいわけです。住む場所が日本であれ、外国であれ、または宇宙の何処かであれ、自分は何者なのかということを知っておくこと、そのためにも今のうちに日本語をしっかりと学び、文化や歴史の背景、最近の世界動向を把握できるようにしておくことが大切だと感じています。

海外で、日本人として母国語での教育を受けることの重要性を理解し、サポートしてくれた両親、そしてあさひ学園で指導していただいた先生方には心から感謝しています。

最後に

シビアな世の中、皆さんが今思い描いている将来のプランや夢を実現させるためには、少々のことではぶれない意思、気力、様々な努力や運など、色々な要素が必要です。日本語を維持しておくことが出来れば、自分の世界をより広げ深めることができ、それによって夢を叶えるチャンスをたくさん作っていくことができるでしょう。今の努力は、将来必ず役立つ時がくることを忘れないでください。そして、今の生活を思い切り楽しんでください。

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