あさひ学園便り
「二つの姿」と「嘘」の奥にあるもの
- 発行:
- 第479号 2026年10月3日
- 著者:
- あさひ学園校長 桑原 嘉明
初秋の候、保護者の皆様には日頃より本校の教育活動へのご理解とご協力をいただき心より感謝申し上げます。
前期が終了し、家庭連絡簿をお届けいたしました。お子様の学びの様子をご確認いただき、後期に向けて、良かった点はしっかりと褒めて伸ばし、課題の見られた点はどのように改善していくか、ぜひご家庭でお子様と温かく話し合っていただければと思います。
また、10月17日にはいよいよ運動会が開催されます。子どもたちが互いに協力し合い、元気に力を発揮する姿を今からとても楽しみにしています。
さて、保護者の方から次のようなお悩みを耳にすることがあります。
「家では甘えてばかりなのに、学校ではしっかりしていると聞いて驚いた。」「家では大人しく手もかからないのに、学校で集団の悪ふざけに加わっていたと聞いてショックを受けた。」「信じていたのに、嘘をつかれて心配になった。」
今回は、子どもたちが見せる「学校と家庭での姿の違い」や「嘘をつく心理」について、心の成長という視点からお話ししたいと思います。
1. 集団生活の中で揺れ動く「二つの姿」
子どもは大人以上に、周囲の環境や人間関係によって振る舞いが変化するものです。
一つは、「外での緊張を家で解きほぐす姿」です。学校で周囲の目を意識し、規範を守ろうと懸命に頑張っている子ほど、唯一の「安全基地」である家庭では、怠けたり甘えたりして心のバランスを取ろうとします。これは健全な心の働きです。
もう一つ、保護者の方を悩ませるのが、「家では大人しい子が、集団で悪さをしてしまう姿」です。これには社会心理学でいう2つの要因が関係しています。
① 同調圧力と居場所の確保
「仲間から外されたくない」「認めてほしい」という不安から、周囲のノリや悪ふざけに流され、ブレーキが利かなくなってしまう心理です。
② 没個性化(集団心理)
集団の中に埋没することで「みんなでやれば怖くない」と責任感が薄れ、一人では決してしないような大胆な行動に出てしまう現象です。また、家庭で「手のかからない良い子」として過度に気を遣い、自己主張や不満を抑え込んでいる場合、そのエネルギーが集団という匿名性の高い場で衝動として表れてしまうこともあります。
2. 「嘘」は認知発達の証であり、心の防衛サイン
悪ふざけが発覚した際や、失敗をとがめられた際に出てくる「嘘」も、親にとっては心配の種かと思います。しかし発達心理学では、嘘をつく能力は「自分と他人の見えている世界や知識は異なる」と認識できる「心の理論」が育った証拠とされています。善悪の判断は別として、知的な発達の一段階なのです。
子どもが嘘をつく背景には、主に次のような強い防衛心理があります。
① 叱られることへの恐怖
② 親や先生をがっかりさせたくない不安
③ 自分のプライドを守りたい願望
これらは決して悪意からではなく、自分の立場や自尊心を守ろうと必死になっているサインであることが少なくありません。
3. 「暴くこと」よりも「なぜその行動が必要だったか」に目を向ける
集団での悪さや嘘に直面したとき、厳しく追及して白状させようとすると、子どもは自己防衛をさらに強め、心を閉ざしたり巧妙な嘘を重ねたりしがちです。大切なのは、行動の良し悪しは毅然と伝えつつも、「その子の心の奥で何が起きていたのか」にも耳を傾けることです。集団での悪ふざけに対しては、「断りにくかったのかな」「本当はどう思っていたの?」と、周囲に流されてしまった本人の葛藤をまず受け止めます。そのうえで、「流されずに立ち止まる勇気」や「本当に大切にすべき友達関係」について一緒に考えていきます。
嘘については、「本当のことを言ったら叱られると思ったんだね」「失敗して悔しかったんだね」と、奥にある不安や恐れを言葉にして受け止めてあげてください。「正直に話してくれてありがとう。失敗しても一緒に解決していこう」と接することで、子どもは「嘘をつかなくても受け止めてもらえ
る」という安心感を学んでいきます。
そして、「失敗した自分、かっこ悪い自分を見せても大丈夫な場所」として家庭が機能し、日頃の小さな愚痴や弱音を温かく受け止めてもらえる環境こそが、外での逸脱を防ぐ最も確かなブレーキになります。
子どもたちは「集団での自分」と「家庭での自分」を行き来しながら、他者との距離感や自己コントロールを試行錯誤して学んでいます。時に道から外れそうになるその姿も、成長の途上にある証です。学校と家庭が手を取り合い、子どもたちの心の揺れと健やかな育ちに温かく寄り添っていければ幸いです。