あさひ学園 - Asahi Gakuen文科省・外務省支援
ロサンゼルス補習授業校

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卒業生・同窓生便り

第四回 外村 彩さん

卒業生・同窓生便りの第四回は、NTTドコモの外村彩(ほかむら あや)さんからです。あさひには小学3年から中学2年まで通われ、日本へ帰国後はICU高校、慶應義塾大学(環境情報学部)へと進まれました。卒業後はNTTドコモに就職、研究開発本部に配属され、現在はネットワーク開発部で映像、音楽などの大容量マルチメデイアコンテンツの高速通信をiモードで提供させるネットワークの機能拡充や新しいサービスの検討に従事しています。米国での異文化体験は言語だけでないコミュニケーションの必要性を感じ、大学ではコンピューターグラフィックスによる映像制作を専攻、これが現在の仕事にも結びついたようです。この点、在校生には、日・英の両言語のバイリンガルになるだけでなく、異文化体験による思考の広がりや発展の重要性を伝えてきています。

禍福はあざなえる縄

はじめまして。外村彩と申します。

私は現在NTTドコモで開発の仕事に従事しています。NTTドコモは、携帯端末による音声・文字・映像など、さまざまな手段でのコミュニケーションの基盤を提供する会社です。私は中でも、FOMA(Freedom Of Mobile multimedia Access)でiモードを提供するためのネットワークの開発を担当しております。FOMAとはNTTドコモで提供している第3世代方式であり、従来の方式に比べてより高速な通信が可能となる、映像・音楽などの大容量マルチメディアコンテンツの配信に適した通信方式です。現在は新サービスの提供に向けたネットワークの機能拡充及び近未来のサービス検討を行っています。アメリカでの経験、特に人とのコミュニケーションに悩んだ経験が私をこの会社に入社させたきっかけとなりました。

小学3年生の終わりに父の仕事の関係で渡米した私は、それまで英語の“え”の字も知らない生粋の日本人でした。両親も海外在住経験は無く、私は海外旅行にすら行ったことがありませんでした。日本人がたくさんいると聞いて入学した最初の現地校は、中国人・韓国人と混同されたのか日本人は一人もおらず、9歳の私は言葉が全く通じない学校に放り込まれることになりました。1日中そこで過ごすのはまさに苦行そのものでした。

渡米して2ヶ月後には妹が産まれていました。右も左も分からない国で長女を現地校に慣らし、乳児を育て上げるというのは両親にとって生半可な苦労ではなかったと、今でも思います。さらに、私たちはいずれ日本に帰国することは分かっていましたから、日本の授業を受けさせないという選択肢は両親にはなかったでしょう。日本とアメリカの文化を同時に学ぶためには、平日は現地校に入れ土曜日はあさひ学園に通わせるというのが最良の手段だと、両親は考えたようです。しかしながら、宿題は無いと聞いていたアメリカの学校では、大量の、しかも難問奇問の宿題が出ました。母は教科書の翻訳に追われ続けました。私はコーラス部で歌うことで発音を学び、バイオリンやフルートを習うことで友達をつくり、ジャズダンスのクラブで別の世代とも交流するという、時間との競争のような毎日でした。

そんな生活の中で、唯一の救いがあさひ学園でした。日本語の通じる環境での授業や、同じ境遇で勉強している仲間たちとあさひ学園で交流することはとても励みになりました。けれども、平日は現地校の宿題に追われていますし、あさひで学ぶ授業の予習・復習はおろか、宿題、漢字テストの勉強をやる時間なんて到底ありません。日曜日はたまの休みくらいゆっくりしたいと大人ですら思うくらいですから、当然子供が思わないはずがないでしょう。そうすると金曜日の夜に一夜漬けで宿題と確認テストの暗記をするしかないということになります。日本で1週間かけて学ぶことをあさひでは1日で教わるわけですから、日本で日本の文化だけを学んでいる同級生たちとは勉強の量が圧倒的に異なります。日本の同級生はあんなにラクをしているのに、親の都合で自分だけこんな苦しい思いをさせられて・・・と当時は思っていました。

それから約5年で日本に帰国し、ICU高校、慶応義塾大学へ進学しました。アメリカの現地校では日本の授業の考え方とは異なり、暗記力というよりも自分で答えを導き出す考え方を身に付けることを重要視した教育をしていると思います。日本では受け身な授業であるのに対し、活発なディベート形式のような授業が多かったと感じています。ICU高校、慶應義塾大学(環境情報学部)の入試では、あさひで学んだ日本語力と、考える力を身に付けさせてくれた現地の教育法が相乗作用となって私を支えてくれました。そうして、アメリカでの言葉が全く通じないという生活の中で、ジェスチャー、表情、絵など言語以外のものを駆使してコミュニケーションを取らなければならなかった私は、やはり言葉以外の方法での自己表現を求め、大学ではコンピューターグラフィックスによる映像制作を専攻し、映像を通じたコミュニケーションを学びました。様々なコミュニケーション方法を習得したからこそ、NTTドコモという会社に惹かれ今の私がいるのだと思います。

入社して4年が経とうとしていますが、出張でデンマークへ行ったり、アメリカの企業と新サービスの開発について電話会議を行ったりしてきました。アメリカでの経験は語学の習得だけでなく、暗記するだけでは身につけられない物事を深く考える力、人の気持ちを推し量るという力を養わせてくれました。私にとって母国語は日本語であり、英語はあくまで外国語です。そしてその外国語はコミュニケーションを取るための単なる道具の一種でしかありません。今、様々な国の文化を体感し理解している人材を企業は求めていると感じます。企業にとって英語がしゃべれるだけ、という人材であれば、日本で英語を学んだ人でも十分です。英語が話せる、ということを武器にするのではなく、外国語を通じて得た力や体験した貴重な経験を活かすことができる人材こそが、企業のグローバル化にもつながり生き延びる上で必要不可欠だということに企業は気づき始めていると感じています。 日米両文化を習得中の皆さんは辛いことも多いでしょう。でも、これからの国際社会の中で必要とされる人材に成長されることは疑いの余地が無いと信じています。

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